人類の誕生と医療の芽生え
人類の誕生
人類の直接の祖先とされる「猿人」では、 「ルーシー」 と呼ばれる400万~300万年前のアウストラロピテクスの化石が有名である。
約180万年前には「原人」(ジヤワ原人、北京原人など) が現れ、約50万年前の北京郊外には火を使っていた遺跡がある。約30万年前には「旧人」(ネアンデルタール人など)が登場する。
約20万年前にはクロマニョン人などの「新人」が現れ、すぐれた 洞窟絵画を遺している。
約4万年前に出現した「現人」は、ホモ・サ ピエンスと呼ばれた。
医療の芽生え
(1) 動物でも?
負傷した動物が傷口をなめる。姿を隠して安静にする(ネコは死ぬところを見せない=動物行動学的には安静を求める行動だと解釈される)などは本能的な行動ではあるが、仲間に対して行うならば、医療の萌芽と考えられないこともない。
「手当て」=痛いところに手を当てて温める行為(孝行な子ザルと猟師の話など)は、精神的な意味でもまさに医療の原点である。ただし、動物では他者の行為(獣医の注射など)の意味が理解できずに死にもの狂いで抵抗されてしまうこともある。
(2) 「手当て」=医療の原点
転んでこぶを作った幼い子どもに、「痛いの、痛いの、飛んでけ!」と、お母さんが手を当ててあげるだけで、痛みは確かに軽くなる。医薬や医療技術が進歩した現代においても、「手当て」が医療の原点であることを忘れてはならない。やさしい言葉と手のぬくもりは、プラセボ効果*を超える絶大な力を持つものなのである。
*プラセボ効果 Placebo effect:乳糖やでんぷんなどまったく薬理作用のない物質 (プラセボ=偽薬)でも「よく効く痛み止めですよ」と告げて服用させると、3割前後の人で鎮痛効果が認められることがある。
主体は暗示効果と考えられている。
エピソード:伊那の孝行ザル
信州伊那の長谷村には、昔から次のような民話が伝えられている。
ある日のこと、勘助という猟師が大きなサルを仕留めて家に帰り、梁に吊るしておいた。
夜更けにふと気がつくと、3匹の子ザルが現れて、囲炉裏で手をあぶつては梁に登って親ザルの傷口に手を当てて温めていた。それを見た猟師は殺生を悔いて、出家し念仏者となったという。
戦前の修身の教科書にも載せられ、現在も現地には孝行猿記念館が建てられている。
引用 松本歯科大学特任教授 笠原 浩 『歯科医学の歴史』
(MDU出版会 2013年 pp.14-15)