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松本歯科大学病院
歯学と医学の歴史

医療と医学の芽生え(後編)

(1) 経験の蓄積(「経験的医療」へ)

ヒトにとっても、最初の医療は動物の本能的な行動とそれほど大差はなかったであろう。有毒な動植物には手を出さない、体調の悪いときはじっと安静にしている、傷は舐めて清潔にする、熱病や局所の腫脹。発熱は冷たい水で冷やすなどといった「本能的医療」である。
しかし、動物と違ってヒトは言葉を使って情報を伝達することができる。
特定の症状に対する薬草の効果などは、経験の蓄積により、徐々に知られていったに違いない。
消化器症状に動物の苦い胆が効くことや、悪いものを嚥下してしまった際の嘔吐の誘発法などは、古くから知られていた。
ただし、こうした経験的医療の情報が年代を超えて蓄積されて「医学」と呼べるようになるのには、文字の発明を待たねばならなかった。

(2) 「呪術的医療」の登場

外力による創傷とは違って、多くの病気は目に見えない、何者かが体内に侵入して心身を痛めつけるのが原因だという考えから「悪霊」の概念が生まれた。悪霊に対しては物理的な抵抗は無意味であるから、唯一の解決策は供物(ときには生け贄)を捧げて悪霊をなだめ、神の助けを願って祈祷することでしかない。
そうした考え方によって、神仏や悪霊などの超自然界と人間とを仲介する聖職者(神官、僧侶など)や、悪霊を追い払う超能力を身につけた魔術師、シャーマンなどが、最初の医療専門職=医師となっていった。
聖職者としての威厳や超能力の誇示などには、それなりの心理学的効果があったに違いない。
近代以前の医師が威厳を示す黒いガウンやマント*を着用した「長衣の医師」であったことにも、その名残を留めていた。
近世の外科医ですら、「清潔」の概念が普及するまでは黒のフロックコートなどの正装がふつうであった。

*日本の漫画家である手塚治虫が描くプラックジャックのガウンもその1例

引用 松本歯科大学特任教授 笠原 浩 『歯科医学の歴史』
(MDU出版会 2013年 p16)

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