現在、歯科医療は従来の治療から予防と管理、さらに口腔健康から全身健康へ変化し、基礎疾患をもたない患者の歯・歯周組織を対象とした健常者型治療から、治療のリスク・難度の増加した高齢者型治療へと変化することが求められています。
このような状況の中で、歯周病は口腔という局所の感染症と捉えるだけでなく、全身に対する歯周ポケットからの持続的な慢性炎症性疾患としても捉えられます。
歯周病と全身疾患の因果関係、関連性に関しては、歯周病に罹患した歯周組織内の細菌やさまざまな炎症性物質が血液を介して全身に影響する可能性(糖尿病、心臓血管疾患、肥満・メタボリックシンドローム、誤嚥性肺炎、低出生体重児・早産)が報告されています。
さらに、介護が必要となる主な原因が、生活習慣病と、認知症や転倒・骨折などの老年症候群であり、老年症候群の原疾患としても生活習慣病が関連しています。
これらはいずれも歯周病との関連が多くの研究により報告され、ここに超高齢社会における介護予防、そして健康寿命延伸との関連性があると思われます。
また、高齢者に対する歯周病治療は、高齢者になってからの対応だけでなく、幼児期から高齢者になることを見据えて対応することが必要です。
現在まで幼児期、成人期、高齢期とライフステージを区切って対応することが一般的でしたが、今後はライフコースアプローチの観点から歯周病治療に取り組むべきです。
高齢者で問題となる高度に進行した歯周疾患は、幼児期から成人期におけるしっかりとした歯周病治療により、生活習慣病の発症、悪化が抑制され、高齢期での予防、発症を遅延でき、要支援、要介護予防が出来る可能性があります。
現在、8020運動等の啓蒙活動により80歳で20本以上の歯が残っている人(8020運動達成者)の割合は、平成28年歯科疾患実態調査において51.2%となり、今後も増加することが推測されます。
しかし、現在歯に4mm以上の歯周ポケットを有する75歳以上の高齢者の割合も8020達成者率と比例して増加しています。
未だ世界のどの国も経験したことのない超高齢社会が到来し、この分野で世界を牽引するわが国にとって、要介護予防による健康寿命の延伸は医療の最重要課題です。
そのために歯周病が健康寿命に与えるインパクト、すなわち要介護予防としての歯周病治療の意義を証明していく必要があります。
執筆:松本歯科大学歯科保存学講座 教授 吉成伸夫
出典:松本歯科大学「CampusToday No.473」